「出口」

ホテルのロビーで待ち合わせがあり、
一人で柱のところに立っていましたら。

「あの、すみません」

一人の女性に声を掛けられました。
蒸し暑い日でしたが、彼女はスタンドカラーの長袖スーツ。
暑さを微塵も感じさせない、涼やかなおしろいのお顔の
上品そうな年配の御夫人です。

ハイ、と答えると、
非常に短い質問を受けました。

「出口は、あちらですか?」

婦人が遠く指す先は、通用口のような小さなドア。
私はここで言葉を詰まらせ、脳をフル回転させることになりました。
「これはもしかしたら、トンチ・・とかなのかもしれない。」

なぜなら、私達二人が立っている目の前には、
ホテルいち大きな正面玄関が一面に広がっていたからです。
ひっきりなしにドアは開き、人もバンバン入ってきます。

しかし婦人は、正面玄関には見向きもせず、
あくまで指さした先の小さなドアにこだわっているようで、

「あちらから出られるかしら・・・」

遠くのその小さなドアは確かに出入り口のようでしたが、
正面玄関よりも細い道に面しているためか、人が出入りする気配なし。
しかし、私が口を開こうとした瞬間、
その小さなドアから人が入ってくるのが見えました。
すると御夫人、追い討ちをかけるように衝撃の一言。

「ああ・・・だめね、あそこも入り口なのね。」

・・・!!!
どうやら・・・信じ難いのですが・・・、
彼女にとって「入り口」とは、「入ってくる口」であり「出口」ではない、
という概念で話をされているようなのです。
「出口」という単体の役割を受け持つ扉を探していらっしゃる。

どうしよう・・・!なんて説明をすればショックを与えずに、
勘違いを真っ向から攻めずに「出入口」であると説明できるだろうか。
しかし、悩んだ私の口からでた言葉は、

「コチラもアチラも、入れますし、出られます♪」
(※無駄なジェスチャー付きで、無駄に明るく)

ああ、なんという駄説!
極めて残念な自分の表現力に落胆していると、
婦人の顔はパアア!と明るくなり、
「まあ、こちらから出てもいいのね!ありがとう!」
”正面出入り口”から表へ、颯爽と出かけていきました。

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取り残された感たっぷりのワタシ。
何・・・何だったの?

・・・私にも出口を!!
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by cherry_icecream | 2007-09-05 16:01 | イラスト


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